
東京慈恵医科大学
医学部5年生
佐藤 宏樹先生
宮上病院で1月より約1ヶ月間,実習生としてお世話になりました。
幼い頃より野生生物が好きで、山間部や海へ通ってきました。
その中で、現地の方々との繋がりもできてゆき、いずれ医療者としてそういった場所で勤務したいという思いが強くなってゆきました。
しかし,大学の通常のカリキュラムではそうした地域医療に触れる機会はなかなかなく、今回、宮上病院さんに受け入れていただきました。
今回の実習では以下のような目標がありました。
まず、徳之島において医師にどのような能力が求められるのか、島で赴任されている先生方は、どのような経歴を辿られているのか伺い、自分のライフプランをどのようにしてゆくかを考えること。
次に、島の方々の生活や文化及び島の自然に触れ、徳之島とはどのような場所なのかを見ることです。
そのどの目標も果たすことができた1ヶ月間でした。
特に常勤として勤務する場合、様々な疾患について、ジェネラルにプライマリケアができる必要があることを痛感しました。
外来からオペから病棟管理まで、種々の疾患について判断をできる能力が必要であると感じ、地域医療を目指す以上、初期研修はジェネラルな能力をつけることのできる場所を選ぼう、という決心につながりました。
また、専門領域ではどのような分野に需要があるのかを実感することができました。
どういった診療科がライフラインとして重要なのかを肌で感じることができ、診療科選択に大きなヒントを得られました。
一度、訪問診療で診ていた患者さんが救急車で運ばれてきたことがありました。
ストレッチャーが処置室へと運ばれ、訪問をしていた看護師さんが駆けつけた時、苦しそうだった患者さんの表情がふと緩み、僅かに微笑んだように見えました。
人が「安心する」というのはこういうことなのだ、と心得ました。
診療を行う先生方一人一人には、それぞれを慕い、信頼を寄せる患者さんがいらっしゃるように感じました。
信頼ある技術と知識に基づく医療行為を継続した先には,ただ”そこにいる”ということ、たったそれだけで人を癒す力を生みうるのだ、と心に刻まれました。
まだ学生である自分ですが、まずは自分の専門領域をもち、貢献できるようになって戻って来たいと思います。
また、徳之島ではサトウキビ農家の方の農作業のお手伝いや、闘牛の世話の体験もさせていただきました。
闘牛を高校生たちが生き生きとお世話しており,自分もそういった高校生活を送ってみたかった,,と少し羨ましい気持ちで見ていました。
季節問わず海でウミガメたちと泳ぐことができ、冬は鯨が島の周りに集まり、夜、車を走らせればクロウサギやコノハズクたちに会うことができ、美しい星空を見上げることができる。
徳之島はとても素敵な場所だと思いました。
島は、その地理的な規模感から、人と人との距離がとても近く感じられました。
誰もがどこかで繋がっているような、そんな空気が流れていました。
すれ違う人の一人一人が,自分の見た景色を知っているかもしれない。
自分が話した相手と、彼らもまた話したことがあるかもしれない。
美しいと思って車を止めた。
あのキビ畑の道も、もしかしたらすれ違った人が、いつの日か同じように感じていたかもしれない。
そう思うと、不思議と人に対する配慮や,優しさが自然と生まれてくる気がするのです。
都会では、物事を進めるにも、話す相手はシステムやルールといった“仕組み”であることがほとんどです。
その先に誰がいるのか、顔も見えないまま終わってしまうことも少なくありません。
けれど、もしこの島で仕事を始めるとしたら、届ける先は“誰か”ではない。
そう思うと、心の奥がほんのりと温かくなります。
初期研修の際も、島の医療に触れられる病院は限られており、学生の間の機会を逃すと、専門医取得までにそういった機会を得ることは、簡単ではありません。
そういった中、宮上病院さんで1ヶ月間実習ができたのは、本当にありがたい機会でした。
そして何より、病院の先生方、スタッフの皆様が優しく接してくださり、一人で島に来た自分でも、とても暖かい気持ちで過ごすことができました。
大変貴重なご機会を、本当に本当にありがとうございました。